星の彼方 雲の隙間

声が届かなくても想ってるよ

流した涙と引き換えに

 

 

「また曲がり角で逢えるよ、絶対」


そう言って5人が白い光の中へ去っていった日のことを、1日だって忘れたことはなかった。武道館のWhiteも有明のnothingも、信じると誓ったbelieveも。


だけど。
それでも。


その後の彼らのすべてを受け入れられた訳ではなかった。忘れようとした日も、諦めて思い出にしてしまおうとした日も本当はあった。


充くんの誕生日が来るたびに、
あの夏は遠ざかって自分の弱さを知った。


大好きだった曲たちが聴けなくなった。

「青春」が色褪せて、

自分の血が錆びていくのが分かった。


それほど愛していた。
それほど大切だった。


もちろん私はクソDD多趣味なのでアイドルや舞台や綺麗なjpgやいろいろなエンターテインメントに力を貰っていたし、幸いなことに大病するでもなく精神を患うわけでもなく過ごしていた。


でもどんなバンドも音楽も、5人の穴だけは埋められなかった。だって彼らは私にとってバンドでも音楽でもなく、「SOPHIA」でしかなかったから。

 

 


2022年3月27日。
充くんとジルくんのバンドが活動を休止することはなんとなく知っていた。最初のころは現場にも行っていたから少し寂しい気持ちもあったし、なによりこの事実が何を意味するのかとても不安だった。


でも、いつものようにTwitterを眺めていた私の目には信じられない文字が飛び込んできた。


SOPHIA」9年ぶりに再始動!
「旗は降ろさない」ファンに約束した武道館で10月11日に復活ライブ

https://www.chunichi.co.jp/article/442262

 

 

涙が止まらなかった。


息ができなくなるほどに泣いてから、ずっとこんな風に呼吸がしたかったんだと気付いた。武道館に行くことは日程を確認する前に決めたし、バラバラになっていた曲を集めようとその日のうちに再びCDを取り込んだ。

 

帰ってくる、私の青春が。


それからの半年はあっという間だった。ライブビューイングや配信が決まり、FC企画ではSNSでの消息確認が難しかったジルくんと黒ちゃんの動画企画が始まった。トモくんと都くんがYouTubeチャンネルを立ち上げたり、表立った活動から離れていた黒柳能生さんが突如Twitterとインスタとnoteを開設したり、まさかのMステ出演もあった。テレビに映る5人は互いに笑っていて、それを見た私は泣いていた。


それでもまだどこか実感が湧かないうちに、

当日はやってきてしまった。


早々に会社を退勤して約束の場所へ向かう。昼過ぎの九段下構内には既に、向日葵が咲いていた。みんなが嬉しそうで、でもどこか泣きそうな顔で。本当に戻ってきたと実感したのはこの時かもしれない。


段々と日が落ちて、「約束」の扉が開かれる。会場いっぱいに詰め掛けた全員が、それを果たすためにやってきていた。

 

 

開演時間も8分を過ぎた頃。

 

前日から乱れに乱れていた精神を統一するために下を向いて目を瞑っていた私の耳に、漏れ出るような歓声が聞こえた。慌てて目を開けると、暗転した客席でフラッシュのようにLEDライトが灯されている。

 

そして始まったあの曲。

夢にまで見た、「愛の讃歌」のイントロ

 

本当に、本当にあの空間が戻ってきた。

体の震えを止めることができなかった。

 

モニターに映し出されたのは、9年前充くんが「降ろさない」と誓ってくれたSOPHIAの旗。過去のライブ写真が次々に流れ、あの日々が確かに存在したことを確かめ合うように会場がひとつになっていく。

 

最後の武道館の向日葵階段が映った次の瞬間

 

Yoshitomo Akamatsu

 

Keiichi Miyako

 

Yoshio Kuroyanagi

 

Kazutaka Toyota

 

ひとりひとりが自分の足で光の中から帰ってきた。手を振ってみたり、投げキスしてみたり、深々とお辞儀したり。シルエットしか見えないのにあの頃と変わらない大好きな4人。


01. 大切なもの

4人が位置につくと、トモくんの力強いリズムがSOPHIAの新しい鼓動を刻み始める。すかさずクラップで応える客席。黒ちゃんが9年ぶりにステージで鳴らす優しいベースのフレーズが重なったとき、1曲目の輪郭が確信に変わった。

 

都くんのキーボード、ジルくんのギターが重なる。お馴染みのイントロが始まると「Mitsuru Matsuoka」の文字が浮かび上がりついに5人がステージに揃う。360度ぐるりと客席を見まわした充くんは、何も言わずそのまま歌いはじめた。

 

“失くしたくなかったものはどんなものだっけ”

 

それを思い出すために、

取り戻すために帰ってきたんだよ。

どうしても諦めきれなかったから。

 

一瞬の静寂を挟んでからのアウトロ。

充くんが叫び始める。

 

9年間、

9年間もの長い間、

みんなのことを待たせたけど、

俺たち5人ずっと離れてたけど

 

5人ひとりひとり、ひとりひとり、

それぞれの現実に向き合ってた

それぞれ歯を食いしばって必死に生きてた

 

ここにいる、全員そうだろ?

 

ただいま!!!!!

 

9年間のすべてを一瞬で肯定されてしまった。私たちにいろいろな想いを抱えながらの生活があったように、彼らも生きてきた。特に4人は表に出る人たちだから言えることも言えないこともあっただろうけど、みんなどこかでこうやって再会する日を夢見て現実と対峙してきたのだと、実感として理解できた。

 

ああ、この人たちはいつもそうだったな。

私たちと共に生きてくれる、現実と闘ってくれる。

大切なものはやっぱり、此処にあった。


02. Early summer rain

アウトロの中でカウントが鳴り響く。大好きだった5月の雨が、青く輝く銀テープになって私たちを濡らした。

 

“切なさも流れてゆけ”

 

湿っぽいのはもう終わりとばかりにステージに笑顔が咲く。そうだった、私たちは此処へ、笑いにきたんだよね。ひとつになりたくて、もう抱えきれない想いを届けたくて、必死に腕を振った。


03. ゴキゲン鳥 crawler is crazy

怒涛の展開で早くも来てしまった大名曲。

LEDライトは三原色に煌めき都くんのLポーズが妖しく光る。

 

縦横無尽にキレキレのパフォーマンスを見せる充くんは中指を立て、今も昔も変わらない社会の不条理に唾を吐く。色褪せない名曲なんて綺麗な言葉じゃ言い表せない、普遍的な怒りが不思議とエネルギーに変わる曲だった。そう、感じたかったのはこんなパワーだ。


04. 君と揺れていたい

ゴキゲン鳥が終わるとリハ中と思しきインタビュー映像が流れる。

 

「この9年間SOPHIAのことを一瞬でも考えたか?」という問いに「一瞬どころじゃない」と口を揃える5人。復活ライブが急に決まって大失敗する夢に魘されたトモジル黒の3人も、何故か気恥ずかしい都くんもなんだか可愛くて。

 

端々から感じた、私たちと同じように会えない間もSOPHIAという場所を愛していたというメッセージは、次のイントロで確信に変わった。

 

“いつもいつの日も風に吹かれて君と揺れていたい”

 

私はこの曲を超えるラブソングを知らない。傷付け傷付いても、生まれ変わったとしても共に。その愛は9年の時を経ても互いに変わらないのだと、痛い程に思い知らされてしまった。

 

05. Eternal Flame

暗転が明けると都くんに当たるスポットライト。一本の映画ほどのストーリーを感じるピアノソロはいつしか耳慣れたイントロへと展開する。

 

黒ちゃんの新しいベースは華奢に見えるのにとんでもない安心感をくれて、胸が締め付けられた。この音が聴きたかった、ずっと。貴方のベースなしで生きていけるほど、私はまだ強くない。帰ってきてくれてありがとう。その心で静かに燃える炎を、また見せてくれてありがとうね。

 

06. Like forever

時計の音とともにテキストで表示される過去の様々な出来事。彼らがデビューした1995年は日本の現代史に刻まれた年であり、中でも4人の故郷である関西は大震災によって絶望的なまでに破壊されてしまった。それでも街は復興を遂げ、都くんはステージ4の癌から見事に復活した。そして誰もが打ちひしがれた東日本大震災の2年後、まだ復興したとはいえない内に、5人の時計は止まった。

 

それから7年が過ぎた2020年、疫病の世界的流行で彼らは復活への想いを強くする。

 

いつもそうだった。彼らはいつだって望みを絶たれた状況に寄り添って、希望を込めて、それを復興への力にしてきた。そうやって何度も立ち上がる人間の強さを、私たちは幾度となく目の当たりにした。

 

何処までも優しい旋律とジルくんも加わったハーモニー。何度だって立ち上がる希望を思い出させてくれる美しい笑顔。如何ともし難い現状を、それでも諦めなければ変えられるかもしれないと信じるのにはそれだけで充分だった。


07. ALIVE

薄暗いライトで照らされたジルくんの抒情的なフレーズから、ステージには炎が揺らめき、語り掛けるように歌いだす充くん。照明の一切ない炎だけのステージで歌うその表情は見えなくて、その分その震えたような声と息遣いが直接的に胸に迫る。

 

“ひとりで生きていこう誰にも頼らないで”

“それができるなら向日葵は枯れない”

 

花はいつか枯れることを私たちは知っている。でも長い冬を超えて、また咲かせることもできるのだと、そのぬくもりをくれたのは紛れもなく貴方達の心なのだと、どれだけこの手を叩いたら伝えることができるだろうか。

 

08. 蜘蛛と蝙蝠

武道館にセットができるまでのタイムラプスから、会場に集まったファンの姿、そしてまた5人のインタビューが流れる。SOPHIAのギタリストとして生まれてきたことを光栄に思ってる」「これが最後かなって、そのくらいの気持ちでいないとダメかな」「ひとつひとつにケリを付けていく」、もはや一本のライブに向けた意気込みではなく人生について語る姿は、重ねた時の大きさを感じるには充分すぎるほどで。

 

でも次に流れてきたのは、選びながら迷いながら暗闇の中でも進もうとする勇気を歌ったこの曲だった。そう、彼らの持つ覚悟は元に戻る為ではなく、前に進む為にあった。9年前とは何もかもが変わってしまったこの世界で、もう一度飛ぼうとする為の勇気を確かめ合うように、私たちは聞こえない歌を届け、5人はしっかりとそれを聴いてくれた。

 


09. 黒いブーツ ~oh my friend~

「心の中で歌ってくれよ!」

 

そんな咆哮から始まるにはあまりにポップなイントロ。淡々と歌われる「お前」との友情は決して綺麗な思い出なんかじゃなく、だけど永遠に失われたかけがえのない日々で。

 

切なくて虚しくて、生きることの耐えられない軽さに涙が零れないように、私たちはサビを踊る。誰かが見たら滑稽なそれが、私たちの生きる術だから。


10. ビューティフル

休止期間中に聴けた彼らの曲は数曲しかないけれど、この曲には何度救ってもらったか分からない。

 

“過ぎたことばかりが何故眩しく見えるのかな”

“冷たい部屋のベッドで一人訳もなく泣けた夜 心の中身を少しだけ捨てた”

 

前に進むとか未来へとか大層な言葉で飾らない、疲れて家路を辿る日々でしか辿り着かない「その先」。それを美しいということができるのがSOPHIAというバンドだった。愛も夢も勤労もすべてが生きることで、だからこそもれなく美しい。

 

11. ヒマワリ

再びリハ映像へ。MCの順番決めでわちゃわちゃする楽しそうなおじさんたち

 

①ジル:時空を超えて青春しようぜ

②都:お待たせしました、声は聞こえてます、コンタクト作りました

③充:コルベット燃えて叩かれた、修理間に合わなかったので1年後に武道館やる

④黒:優しさと可愛さでできてる、猫かわいい

⑤トモ:燃やそか?俺のドラム

 

一通りのわちゃわちゃコルベット漫談MCが終わるとトモくんに曲振りを頼む充くん。おもむろにドラムセットの横に飾られた向日葵を取り出し「みんな持ってきてますか?」尋ねるトモ、色めき立つ客席。

 

「ここに咲く!!!鈴蘭たちに贈ります!!!!」

 

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

どんな気持ちでこれ抱えてきたと思ってんねん大概にせぇよ(すき)ww

 

気を取り直して充くんから夏目雅子ひまわり基金への協力の御礼が述べられる頃には武道館は一面の向日葵畑。「この景色がずーっと見たかったです、9年間。みんなもそうやと思います。」という言葉のしみじみしたトーンは黄色い世界の中で一層切なく胸に響いて涙が零れそうで。

 

“風に揺れるヒマワリあの頃のままだね”

 

5人とも少しだけ泣きそうな優しい顔をしていて、笑顔見せてって言ってるのがどっちか分からないぐらいだったけど、私たちも大概泣きそうだったからいいよね?


12. KURU KURU

アウトロの余韻の中トモくんのドラムソロが聞こえたらもう楽しい以外の感情がなくなってしまった。頭を空っぽにしてLEDが光る腕を全力で回したらもう何もいらなくて、会えなかった時間が、胸の隙間が埋まっていく。

 

泣いて笑って、失くしたくない大切なときめきを抱える日々を取り戻して、くるくると踊るように。そんな風にこの先も生きていけたら。


13. little cloud

「正直、3,4年過ぎた後、もうないなと思いました」

 

それぞれのメンバーとの出会いから(黒ちゃんとの出会いはアフトで語ってくれたよ)、19年間走り抜けた話、活動休止を決めて、本当は2,3年で終わると思っていたのにそうはいかず苦しかった話。いくら正しくても真っすぐでも届かないことはある。諦めて吐き捨てれば楽だけど、まだそうじゃないって信じて生きていたいよね。

 

充くんの想いがとめどなく溢れるMC。向日葵畑を見ていま世界で起きている悲劇にまで思いを馳せて、その優しさで敵だと思っている人を抱きしめてほしいと伝える顔はほとんど泣いていて。

 

ここに集まってまた旅立っていくみんなへ、と捧げられたlittle cloudはどこまでも優しく澄んでいて、すれ違いだらけのこの星で出会ってこの日また集まることができた奇跡を感じずにはいられなかった。

 

14. cod-E 〜Eの暗号〜

都くんが復帰して最初にリリースされたこの曲。過去の様々なフレーズが鏤められた歌詞と力強いサウンドが逞しく響いて、レーザーが激しく点滅しながら真っ直ぐに伸びる。

 

“明日が欲しくて目指す「この」場所で”

 

充くんが強い眼差しで指さしてくれたのは確かにこの場所だった。休止が発表されてからの10年、ずっとずっと明日が欲しかった。目指すべき明日を、5人が「今日」に変えてくれた。もう何も怖くない。


15.- 僕はここにいる-

何かを失ったとき、誰かに裏切られたとき、傷付き逃げ出したくなったとき、私たちは必ずこの曲に救われてきた。残酷に過ぎていく時の中で自分さえ見失っても、立ち上がってはじめからやってみればいい。後ろには確かに超えてきた壁があるし、失くしたものなんて大したもんじゃない。

 

夢のような再会。この時間はもうすぐ終わるけれど、僕も君もお前もみんなここにいる。その事実だけは離さない。

 

ところで配信だとあまり分からないけどこの曲のドラムめちゃめちゃ良かったよね?あまりの優しさと力強さに泣いてしまった。トモくんの音は前から好きだったけど、9年の時を経てもっと深くもっとキレ良く、寄り添うだけじゃなく時には先陣切って引っ張るように、すっかり大人のドラムになっていてドキドキしました。


16. 夢

「振り返る話ばっかりになっちゃうけど許してくださいねこんな日は」

 

男性ファンが最初はライブに行きづらそうだったけど今日はたくさん来てくれて嬉しいという話(私は両隣が男性でした)から、ファンも20年経って責任ある立場になってきたよね、あの頃はライブ代を捻出するのも大変だったよねという流れからEternalシート(30,000円也)の話に。

 

何が言いたいかというと、

あの頃はお金も無かったやろけど、

今あるやろ?今あるやん

まあまあ貯め込んどるやん

(爆笑するメンバー)

やったな!みんな頑張ったな!

 

充くんが楽しくなってMCの収集が付かなくなるのだぁいすき。ともあれ「5人でまたこの曲ができるのはすごくすごく嬉しいです」と始まったこの曲。

 

“見たいものは光じゃない見せたいのは傷じゃない”

“俺たちを今も突き動かす夢”

 

ガキだったどうしようもない自分に向けて、今も光を浴びて叫び続ける5人。転がる石ころを標榜するロックンロールバンドはぶつかり合って丸くなっていくところにその本質があるのだと教えてくれたこの曲は、時が経つほどに丸く優しく、でも尖っていたころの煌めきが瞼の裏にチラつくような魅力を増していく。

 

あ、だいぶ苦しそうだったのに原キーで歌ってくれた充くんとあの頃のままの歌詞で歌ってくれたジルくん都くんトモくんには感謝なんだけど、お家で猫が待ってる人は一回そこに正座してもらっていいですか?(すきです)

 

17. 街

この9年間も聴いていた数少ない曲のひとつで、一人でカラオケに行ったら必ず歌ってた。でも、このタイミングでトモくんの印象的なフレーズが聞こえたときの高揚はとても言葉で言い表せるものじゃなくて。

 

“見えないものに向かうとき人は誰も孤独”

“嗚呼泣かないで君を悲しませるもの悲しませる僕を消せるときまで”

 

“そして僕らも みんなを連れて”

 

ずっと待ってたよ、この街で。見えないものに向かうとき、泣きそうなとき、この曲に力を貰いながらずっと。孤独なひとりひとりが、それでもこうして一隻の船に乗り合って互いを受け入れるこの瞬間を。

 

18. エンドロール

ズルい。この流れはズルすぎる。

 

私は大名盤Weが大好きで、聴いてた時期も時期なので個人的な思い出とも紐づいているんだけど、中でもこの曲には本当に何度勇気づけられて何度泣かされたか分からない。

 

“僕たちは恐れない共に泣いて笑った日のことを忘れない限り”

“流れないエンドロール幕が下りても鳴り止まない拍手を胸に刻んで”

 

忘れることなんてできなかったから、このままエンドロールなんて流したくなかったから、今日に辿り着いてまた一緒に笑って泣いて。この頃にはもうステージも客席も関係なくて、ただただひとつに溶け合うように何もかもを抱き締めあうだけの空間だったね。

 

19. Thank you

「こんな変わり者バンドを支えてくれてありがとう」

「なんど言っても言い足りないから曲で心から感謝したいと思います」

 

そんな前振りから流れ始めたのは優しくて綺麗なThank youのイントロ。4人の演奏もどこか泣いているように響いて、大きなミラーボールが眩い光をゆっくりと空間全体に広げる。

 

“僕らも大人になって誰かの親にもなってやがて土になろう”

“そして小さくとも花を咲かせられたらやっと誰かの涙止めて”

 

“使い古しの言葉 ありがとう”

 

私はこのふたつのフレーズに衝撃を受けてSOPHIAを知った。あの頃はまだ幼くてよく分からなかったけど、どれだけ言葉を尽くしてもその5文字でしか伝えられない想いがあること、今なら分かる。土に還ったあとでせめて、誰かの涙を止められたらと思う。

 

そんな優しさを、感謝を教えてくれたのは、やっぱりSOPHIAなんだよ。どんなに書き殴っても伝わらないけど、心からありがとう


20. Kissing blue memories

「手叩くのも疲れるよな、痛いよな」

「苦しいのに久しぶりなのに、歌いたいのに我慢してくれてありがとうね」

「みんなの声は本当に聞こえてるよ、本当に」

 

「煽るけど、声は出さないでください笑」

 

リリース順でいえばデビューしたSOPHIAの始まりの曲。何回も何回も、飽きるほど愛し合うために奏でてきた曲。振付と合いの手のダサさに最初は衝撃を受けたけど、今では重ねた時間を感じる大好きな曲。

 

黒ちゃんの猫ベースが可愛い顔してゴリッゴリの最高ソロを奏でると(あとこの曲のどこか映らないところでこのひと天に向かって投げチュしてたんですけど脳が爆発してタイミングを覚えてないので誰か教えてください)、ショルキーでセットを飛び出した都くんがセンターに立ちジルくんとハモる。

 

いわゆる落ちサビ、いつもなら客席に歌わせてくれるところ。9年前の武道館で、私たちが大声で歌うのをジルくんと黒ちゃんが向日葵階段の下で耳を澄ませて聴いてくれたところ。

 

聞こえてるか?

 

俺の声は聞こえてんのか?

 

聞こえてんのか!!!!

 

涙の笑顔で、あらん限りの力を込めて手を叩くSOPHIAns。終わらない約束を果たすために、5人の音を聴くためだけに集まったSOPHIAns。声が出せなくても諦めたりしないよ、本当に届けたかったから。

 

21. Believe

全ての始まりの曲。行先も見えない航海を「信じる」ことから始まった5人の旅路。ひとりひとりの仲間と出会って、迷う日も立ち止まる日も悲しい別れもあったけれど、いつも明日を信じ続けたから辿り着いた今日。

 

ジルくんの勇気と希望と確信に溢れたフレーズが響くと同時に、再び歩き始めたその道を照らすように、客席もステージもすべてが明るく光って何もかもがひとつになって、もう言葉はいらなかった。

 

最後の力を振り絞って縦横無尽にステージを駆け回る充くんがドラムセットの後ろに上がってトモくんの肩を抱いたのは2番のこと。少し驚いたように破顔したトモくん。そのまま肩をポンポンと叩きながら充くんが歌ったのは「凍えそうなLonely nightsもう要らない」という言葉で、その歌詞の持つ意味があまりに大きすぎて。

 

ずっとSOPHIAしか知らなかった末っ子のトモくんが、あのとき何を考えてどう決断してそれを変容させていったか、全て見ていた訳ではないけれど。寂しかったよね。辛かったよね。こんな未来に連れてきてくれたのはトモくんだと思ってるよ。本当にありがとうね。

 

“流した涙と引き換えに”

 

あげよう

 

溢れる

 

この想いすべて

 

泣いてたのは私たちだけじゃなかった。寂しいと思ってくれてた。会いたいと思ってくれてた。分かっていたつもりだったけど、どこかで期待しないように押し込めてた。でもこんなライブ見せられたらさ。少し自惚れてもいいかなって思っちゃうよ。

 

終了予定をおそらく大幅に過ぎたであろう21時半(能生さんのnoteは21時に予約投稿されてた)。すべての曲を伝え終えた5人は一言ずつの挨拶のあと手を繋いで一礼し、9年2ヵ月ぶりのライブは幕を閉じた。

 

最後の最後、一礼の後に抱き合う充くんと都くん。そこに加わるジルくん。それに気付いたもののすぐに加わらず、下手に水を飲みにいった黒ちゃんを輪の中に連れてくるトモくん。ずっとずっと見たかった光景。歩みを止めるためじゃなくて、歩き出すためにまたひとつになる5人。

 

そうして全員が客席に手を振ってハケた後。

モニターに映し出されたのは未来の日付だった。

 

2023年1月8日(日)

大阪城ホール

SOPHIA LIVE2023

“return to OSAKA”

 

思わず我慢しつづけていた筈の歓声が沸き起こる。信じられない。次の約束まで用意しているなんて。昔みたいにはできないって、これからは自分たちのペースでやるよって言ってたクセに。ズルいよ。だいすき。

 

活動休止が発表された夜、もう聴力なんてあっても仕方ないと思って耳を壊すほどの大音量で「未来大人宣言」を聴いた。月光のフレーズで泣いて泣いて泣き腫らして、まだ残っていたツアーに向かえるかどうかも分からなくなった。

 

3人で新たなバンドが始まった時、そこから脱退者が出た時、別のバンドが立ち上がった時、お店を始めたと聞いた時、もうダメかもしれないと思った。4年が過ぎ5年が過ぎ、このまま待つことで傷付くのが辛くなってしまった。

 

でも生きていたらこんな日が来ることもあるって、また5人は教えてくれた。星の数ほどある曲がり角のひとつで、奇跡のようにまた全員が出会えた。嘘みたいで夢みたいで、だけど確かに向日葵は咲いた

 

アフタートークでは謎のテンションでフワフワ喋るジルくんに黒ちゃんのツッコミが炸裂したり、開演前の記者会見で一般人代表として黒ちゃんが注目を集めたり(シルエットで出てきた瞬間にターンしながら投げチュする一般人が居てたまるか)、スポーツ紙の芸能面に大きく取り上げられたり、待ち望んだ逢瀬も終わってみれば一瞬で。だからこそ、次の約束がすごくすごく嬉しくて。

 

悲劇の絶えない世界で、理不尽な馬鹿げた社会で。それでも誰かを信じ愛することを、たとえ他人に嗤われようと諦めなくて良いんだ、って教えてくれるのが私にとってのあの空間だった。

 

やっと、やっと呼吸ができたよ。

たくさん笑わせてくれて、一緒に泣いてくれてありがとう。

 

寂しくて悲しくて

息ができなかった9年2ヵ月。

でも大丈夫。

これからは一緒だから。

 

夢に向かって叫び続けよう。

歩き続けよう。

大切なものを信じて。