星の彼方 雲の隙間

声が届かなくても想ってるよ

叶えられるよ僕らは~ジャニーズ伝説 at Imperial Theatre2021~

例年であれば10月からのえび座を楽しみにしている9月末のある日。その一報は突然やってきました。


ジャニーズ伝説 at Imperial Theatre2021


日生劇場日生=星の劇場として5人とファンが大事にしてきた場所でした。ふかふかの絨毯も美しい階段もたまにおじさんが出てくる(って河合くんが言ってた)天井のクレーターも、私たちにとっては秋の季語であり、それぞれがそれぞれに数え切れないほどの思い出を持つ場所です。


それでもいつか、帝国劇場に、日本一の劇場に立つ5人を見たいという思いはいつからか芽生えていました。SHOCKから始まり連綿と続く帝劇ジャニーズ舞台の系譜に、5人が5人で居る意味を問い続けてきたABC座が並ぶ日が来たらどんなに素晴らしいだろうと思っていました。

 

それはまさしく、私の「夢」でした。

 


ジャニーさんが亡くなった2019年以来のジャニーズ伝説は、主演であるA.B.C-Zが演出を担うことが発表されました。自分たちの手でとにかくやってみること、これは劇中でも強調されたジャニーさんの教えです。

 

2018年版が最高傑作だと思っている私は率直に「5人がやるのならどんな結果でも受け止めるし納得できる」と思いましたが、それは今思えば、先回りした言い訳でもありました。


初日の幕が下りたときの衝撃は今でも忘れられません。1ミリでも不安に思った自分が恥ずかしくなるくらい、魂を込め考え抜かれた新しいジャニーズ伝説が、そこにはありました。


本編への導入は7 MEN 侍の苦悩。先輩たちの歩んだ道を自分たちも追い掛けたいけれど、その入り口が何処にあるのか分からないと吐露する6人に、A.B.C-Zの声が穏やかに語りかけます。


「探しているのか」
「ただ探しても見つからないよ」
「道は自分たちで切り開くものだからさ」
「僕たちもそうしてきた」
「はじまりの一歩を見てみないか?」


名もない後輩Jr.ではなく今現在活動する既存ユニットが物語の受け手として描かれることで「自分たちの道を切り開くために」歴史を知る必然性が明確になり、客席は彼らと同じ視点からストーリーへと導かれていきます。

 

過去の事実をただ再現するのではなく、未来のために語り継ぎ受け継いでいくことは2019年から特に意識されているテーマですが、それを更に先鋭化させコントラストを高めた手法は出色の出来映えだったと思います。


また今回はコロナ禍の制約もあり休憩無しの2時間10分という上演時間で、再演というよりは一度壊して再構成する必要がありましたが、これまでの説明台詞やアドリブを削れるだけ削っているのに、むしろ今までより伝えたいポイントが明確に浮かび上がってきたのには本当に驚きました。

 

たとえば物語が始まるワシントンハイツのシーン。これまで芝居で見せていた部分がラップを交えた軽快なナンバーとなりリズミカルに進行していきます。後にも言及される早替えを採り入れたり、4人が加入するとリズムが変わり照明も色鮮やかになっていくなど、説明場面と感じさせないアイデアに満ちていたのが印象的でした。


ここを含めアメリカ行きのシーンなどもそうですが、コンパクトにまとめつつショーアップする手法としてあちこちミュージカルナイズされていたのが、帝劇の怪人こと光一さんのおたくとしても非常に嬉しかったです。


\\ヘターズなんて!もういやだ!!//(発作)


そして特筆すべきは帰国後のシーン。
空港に降り立ったジャニーズがアメリカでレコーディングしたレコードを流すと、記者たちは怒りだし帰ってしまいます。

 

これまでも描かれてきた場面でしたが、ジャニーズの4人に感情移入していた私たちがなんとなく腑に落ちないシーンでもありました。

 

今回はそこに記者たちの「誰が歌っているかも分からないレコードなんて流すより4人のエピソードが聞きたい」という旨の台詞が追加され、さらには7 MEN 侍が「アメリカでレコーディングなんてどう考えても凄いのになんで記者の人たちは帰っちゃったの?」と畳みかけます。

 

時代が追いついていなかったというジャニーさんの返答は淡々としていながらも物寂しく、アメリカでの輝く日々との対比を感じさせました。それを踏まえてのスパイダースとのやり取りでもアメリカ留学を「駄目だよ遊んでちゃ」と言われ、飯野の「誰も真に受けちゃいない」という言葉が重苦しく響きます。

 

この一連の流れがクリアになったことで、あおいが解散という選択肢を選ぶ説得力が段違いになり、「未来の為の解散」という言葉が決して自分たちの心を誤魔化すための台詞ではなかったこともようやく理解できたように思いました。(なお解散シーンのおさみがめちゃめちゃ食い下がるようになったのも大好きなのであれを見ながら2時間呑みたい


さらになんと言っても今回、みんな大好き2018版のラストシーンがパワーアップして帰ってきたことは外せません。

 

ジャニーズの解散を受け入れたジャニーさんのもとにやってくるデヴォーゾン(もしくはアツヒロさん御本人のようにも見えました)。「本当は誰よりああしたいこうしたいと思っているクセに、若い子の気持ちを優先するんだね」と語りかけます。


「僕は若い子たちをサポートするのが生きがいだからね。たとえこの身体が無くなったとしても続けていくよ」


「たとえこの身体がなくなったとしても」。そのフレーズはジャニーさん亡き世界を生きている私たち、そしてジャニーズの一員として舞台に立つ全ての出演者の胸に響きます。2年前にはきっと生々しすぎたこの言葉は、それからも前に進むことをやめなかったジャニーズ事務所の全タレントへの祝福のようですらありました。煌めくあの日のジャニーズとのリハ風景が美しい光の中に消え、物語の本編は終幕します。


はじめは野球がやりたいとすら言い出せなかった4人は、「やっちゃえばいいんだよ」と何度も何度も背中を押され、最後には自分たちの手で未来の為の解散を選び取りました。

 

これは端から見れば悲しい結末だったかもしれないけれど、初めにあおいさんが言った「青春の貴重な汗」がジャニーズの本質だとすれば、ジャニーさんの言うように決して否定することはできない彼らだけの選択でした。


たとえ理解されなかったとしても時代の先を掴みに行くことの意味は必ずある。それを証明し続けるのがフォーリーブス以降の全てのグループの責務であり、「夢と夢を繋げ」の意味するところであるのかもしれません。


さて、今回もうひとつ残しておきたいのは、まさに「伝説のアイドル」光GENJI佐藤アツヒロさんの特別出演です。帝国劇場のジャニーズ舞台において主演の大先輩にあたるジャニーズタレントが特別出演するのは定番ですが、アツヒロさんが帝国劇場の舞台に出演してくださることは少し意外でした。

 

でも今にして思えば、グループの解散を当事者として経験したアツヒロさんが役柄としてジャニーズの解散を見届けることには不思議な縁を感じます。必然性と言い換えても良いかもしれません。


以前えびちゃんずーに出演したアツヒロさんは「本当は解散したくなかったけど言い出せなかった」という話をされていましたが、今年の解散シーンの飯野にはその気持ちが多少なりとも乗り移っていたのではないかと思わずにはいられません。


そしてアツヒロさんの出演で大きかったのは、兼ね役をたくさんやってくださったことで、戸塚くん演じるジャニーさんがジャニーズと一緒に旅するシーンがたくさん描けるようになったことでした。なかでもジャニーズが初めてバックダンサーでテレビに出演したときのプロデューサー役は失礼ながらあまりにもハマっていて、3月の五関くんとの舞台が楽しみで仕方ありません。さらに先述のラストシーンでは、アツヒロさんの存在により4人とジャニーさんだけの物語でなくなったのも、非常に奥行きの出る変更であったと思います。


劇中では新曲を披露してアメリカへの憧れを体現してくださったり、後述するYou...を後輩たちと一緒に歌ってくださったことにも、この演目だからこその大きな意味が生まれました。そしてなんと言っても、ジャニーズメドレーでの光GENJI曲の歌唱はリアルタイムを知らないジャニーズファンにとってはまさに「目撃した」としか形容のできない体験で、天下を極めたトップアイドルの煌めきを2021年の帝国劇場で浴びられたことはなんとも贅沢でした。


御本人が希望されたというガラスの10代の当時のままの振り付けも、ミラーボールがたくさんの人の思い出を映し出すようなGraduationも、ローラースケート捌きで否が応にも胸が熱くなる太陽がいっぱいも、言葉での説明を遙かに凌駕する説得力があり、ジャニーズはまさに「続いてく伝説」なのだという想いを新たにすることができました。

 

ところで今回、セットが物凄く豪華になったとはいえ、フライングも無い、外部アンサンブルも居なければアクションチームも居ない、帝国劇場で上演するには極めてシンプルな作品であることに正直かなり驚きました。ショーアップしようと思えばそういう方向性もあったのかもしれません。そもそも見映えのする別の演目をやる可能性だってあった筈です。

 

それでも彼らが大切なこの機会にジャニーズ伝説を選んだこと、見た目の派手さよりも演出の深化に力を注ぎ言葉よりもパフォーマンスで全てを証明してくれたことを、心から誇らしく思います。

 

そして最後に、2019年版ジャニーズ伝説のフィナーレの為に書き下ろされたYou...についても書いておかなければなりません。

 

この曲はジャニーさんの身体が天に昇るまさにその時に、河合くんが剛くんにお願いして出来たのだと言われています。A.B.C-Zが大切に大切に歌ってきたこの曲は、ジャニーさんからの言葉のようでもあり、またジャニーさんに向けた言葉のようでもあり、先輩後輩ジャニーズファミリーみんながひとつになって未来への旅を続ける為の誓いのようにも聞こえます。

 

光となって確かにそこに現れるジャニーさんは、肉体を失っても彼らを見守り続け、また彼らもその光を見失わないよう大切に追い掛けて行きます。ジャニーさんをよく知らない子供たちがその光を囲んで駆け回る姿は、何度見ても涙が溢れて止まることはありません。

 

そして終盤、「叶えられるよ君なら」と背中を押されてきた彼らは、光のもとに跪き、

 

叶えられるよ僕らは

 

と泣きそうな笑顔で語りかけます。これはまさに劇中で描かれていたジャニーさんの姿勢に対する彼らの答であり、過去と未来を繋ぐ約束でした。

 

ジャニーさんの夢でもあった「Never my love」を託された5人が今こうして自分たちの力でこの場所に立ち、仲間たちと共に何度でも誓いを立てる姿が、天国でも忙しくしているであろうその人にどうか届きますようにと、願わずにはいられません。

 

ABC座2021は、私たちファンが夢を信じる「勇気」を貰って劇場を出るところまで全てが美しいストーリーに収束していくような、特別な体験でした。この伝説はきっと、誰かが夢を見る限り続いていく終わらない物語となるでしょう。だって「世界は君のステージ」なのですから。