星の彼方 雲の隙間

声が届かなくても想ってるよ

私達の聖戦〜ファウスト東京公演〜

ファウスト〜最後の聖戦〜」
7/10〜7/20@東京芸術劇場

私達の戦いが、終わった。

昨年何かと話題のアイアシアターで上演された手塚治虫作品の再演である。河合郁人三田佳子、五関晃一のトリプル主演が注目され、今年は河合郁人の女装シーンにも耳目が集まった。

私は去年の初演を1度しか見ていない。その頃はまだ五関担でもなかったので、なんとなくTwitterがざわざわしているな、くらいしか感じていなかった。まあその意味は今年の初日を見て嫌というほど分かった訳だが…。

(ネガティブが嫌な人はここからしばらく読み飛ばしてね)

まず、何よりも気になったのが日本語の使い方。今時中学生だって推敲すればもう少しマシな戯曲が書ける。演者は一生懸命やっているけれど、流れるようなリズムが出ないし、観客はストーリーに集中することが叶わない。

ストーリーも詰め込み過ぎで、しかも初演の大事なシーンを惜しみなくカットしているものだから、ハッキリ言って意味がわからない。物語の整合性が取れていない。無理矢理解釈することはできるかもしれないが、それを正解と思える根拠は舞台の上に転がってはいない。何か意図があるならそれは観客に伝わっていないし、意図がないなら何の為の再演なのか。

「自担を人質に取られている」と例える人がいた。まさにその通りだ。客席は初日と楽以外ガラガラだった。2階席は開放すらされていなかった。本当は自担に空席なんか見せたくない。特に今年単独主演のような扱いだった河合くんは責任を感じてしまうのではないか。でも連日満席が続けばまた再演したりあの製作陣で舞台を作られてしまうかもしれない。Twitterには連日そのジレンマを抱える河五担の苦悩が流れた。

どうして、どうしてあの2人がこんな目に遭わなくてはいけないのか。私には今でも理解できない。塚ちゃんのブレイク、とっつーの銀幕デビュー、はっしーのソロコン。やっと、本当にようやく「今、売れているグループへ」と言われるようになった5人の中で、何故2人がこの仕事を受けなければならなかったのか。2人が芸劇の板の上で輝いていたからこそ、より一層その想いは募る。

(ネガティヴおわり!)

河合くんと五関くんは本当に素晴らしかった。あのハードスケジュールの中でもちろん調子の波はあったけれど、役柄に深く寄り添い、誰よりも美しくその人生を全うし、しっかりと客席に対峙していた。スタッフや共演者から漏れ聞こえる座長としての姿もファンとして誇らしい限りだった。

とにかく美しかった。漫画から飛び出してきたような美しいヒーローだった。全力で2度目の人生を生きるファウストに漲る迫力の凄まじいこと。逃げ出せばマルガレーテの命はないと脅迫する王を睨み付ける目の鋭さがとても好きだった。剣の重さを感じる重厚感のある殺陣が好きだった。仲間の死を本気で悲しむ顔もボロボロになりながら素晴らしい人生だったと微笑む最期も大好きだった。美男子になっても最初はぽわんとしているのに、自らの人生を切り拓き、多くの犠牲を受け止めながら一国の王にまで上り詰め、それでも最後は愛の為に死んでいく、その姿から目が離せなかった。フロントに立つ、選ばれたスターだと思った。何もかも背負って、不安で仕方なくても前を向いて、全部受け止めて跳ね返す力のある、そんな主人公だった。


★五関晃一 asオフィスト★
愛しかった。板の上のオフィストはただただ愛しかった。身のこなしや殺陣が美しく凛々しく麗しいのはある程度予想できていたけれど、自担がこんなにも「目」で演技する人なのだということは今回初めて知った。登場直後ガブリエルを始末しようとする温度のない目、バレンティンに捕まったファウストに名前を呼ばれ逡巡して揺れ動く瞳、絶望へと堕ちていくマルガレーテを観察する目付き、ファウストの成長を感じ微笑む顔、メフィストに「耄碌したか」と毒付くヘレネを睨み付ける刺すような視線…中でも自分の使命を見つけそれを「意味のないこと」とメフィストに一蹴されたシーンが素晴らしかった。

オフィストにとってメフィストは母であり分身であり世界の全てである。そのメフィストに自分の使命を否定されたオフィストは、これまでの強く凛とした姿が嘘のように俯き、縮こまり、手をぎゅっと握り締める。「お見過ごしくださいませ」という言葉に宿るのはその語気とは反対に懇願の色合いである。使命を果たして最後にメフィストの名前を叫ぶその目には、強く強く、激情としか言えない何かが燃えていた。愛を知った悪魔の、壮絶な最期だった。

そしてもう一つ特筆すべきなのが、最期を遂げた後のファウストに語りかけるシーンである。本人も初日のアフタートークで話していたように、息絶え絶えに話す訳でも、泣きながら話す訳でもない。淡々と、友への友愛だけを滲ませながら、信じられないほど優しさに満ちた声がファウストに降り注ぐ。ファウストがオフィストと出会って成長したように、オフィストもまた、ファウストに出会って心を知ったのである。本当に見事としか言えない表現だった。五関くんを好きで良かったと心から思う。

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目の前の仕事を懸命にこなし、それをチャンスに繋げてここまでやってきた2人。スキルの高さも想いの強さも今更ここで語るべくもない。更に上の、彼らに相応しいステージで輝いてもらうためには、もっともっと私達が周囲に声を伝えるべきなのかもしれない。支えるなんて烏滸がましいけれど、然るべきところに想いを発信する必要があるのかもしれない。あまり要望要望というのは嫌いだけれど、ほんの少し、そんなことを思った。

私達の聖戦は、まだまだこれからだ。