星の彼方 雲の隙間

声が届かなくても想ってるよ

《P.S. I love you 》 BACKBEAT大千秋楽に寄せて

 

 

思わぬところですごい舞台に出逢ってしまった。

大好きな、大切な舞台が増えてしまった。

 

父はBeatlesの大ファンだった。昔からカーステで曲を流したり、テレビでドキュメンタリーが放送されれば必ず録画して繰り返し見ていた。中でもジョンが好きで、家族でジョンレノンミュージアムに行ったこともあったし、今でもリビングの前の廊下にはジョンの巨大なポートレートが飾ってあり、命日には花が飾られる。

 

もちろん今や教科書に載る歴史上の偉人である彼らのことを知らない人はいない。リアルタイムで知らない世代でも、私のように周りの大人が大ファンだったという人は多いことだろう。

 

でも私は知らなかった。

 

彼らが「ビートルズ」になる以前に生きていた人生のこと。そこにあれだけの熱が、予感が、青春があったこと。運命があったこと。

 

 

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物語はスチュワート・サトクリフとビートルズの前身であるクォリーメンの出会いから始まる。絵描きだったスチュを半ば無理矢理バンドに誘うジョン。5人の少年の青春が確かに色彩を帯びた。

 

スチュの命名The Beatlesとして再始動したバンドはハンブルグのクラブに専属で雇われる。治安も客層も待遇も最悪の状況でオーナーのコシュミダーに命じられたのは“make it show”。この経験がBeatlesというバンドを形作ることになる。酒に女に薬に煙草、色付き始めた青春は目にも留まらぬ勢いで加速していった。

 

ある日その出会いは訪れた。バンドがスターダムをのし上がる一方で、アストリッドの聡明さと才能に惚れ込んだスチュは恋の炎を燃え上がらせ、バンドやジョンは優先事項ではなくなってしまう。画家、ミュージシャン、恋、その全てが自分だと主張するスチュがアストリッドとの同棲を始めた頃、不法労働が発覚しBeatlesは強制送還となる。

 

1幕はとにもかくにも疾走感溢れる青春が鮮やかに展開されていく。天文学的な数のバンドがある中で自分達に居場所なんてないと零すメンバーはただただ普通の少年で、これから惑星をひっくり返すほどの波を起こすようには見えない。刺激的な街との出会い、マックショウをひたすら演じ続けること、トップを目指す野心、瑞々しい感性で何もかもを吸収していく5人の姿が眩しかった。

 

強制送還を解かれハンブルグに舞い戻った5人。彼らを取り巻く熱はますます大きくなるが、再会したスチュとアストリッドの恋もさらに燃え上がり、スチュは自身の変容を自覚する。

 

ある日失踪したスチュ。部屋を訪ねたジョンは、彼がアートカレッジの面接から帰らないこと、1ヶ月前には願書を出していたことを聞かされる。灯台の下で再会する2人だが、ジョンはスチュが戻らないことを悟り、彼を残してリバプールに帰ると告げる。

 

袂を別つスチュと4人。アストリッドと暮らすスチュは絵を描き続けるも難病に冒され激しい痛みと闘っている。彼を想い続けるジョンの歌声が初めてレコードに記録された頃、スチュはあまりにも早く夭逝してしまう。残されたジョンの慟哭が約束のlove me tenderとなって街に響いていた。

 

リンゴをメンバーに加えアルバムを録音するBeatles。風邪をひき12時間半ぶっ通しで歌わされたジョンはプロデューサーから命じられたもう一曲を拒むが、ポールは「最後のチャンスだ」と声をあげる。twist&shoutを叫ぶジョンとBeatlesの青春の最後の煌めきは、スチュと共に額縁の向こうへ還っていったのだった。

 

2幕は少しずつすれ違っていく運命の歯車、葛藤、離別に深く照明があたっていく。ジョン、スチュ、ポール、それぞれに抱える想いが絡み合いその波は少年達の青春を攫っていった。

 

愛、青春、大人になること。その輝きと痛みを激しくそして鮮やかに描き出した舞台BACKBEAT。洗練を知らないからこその魅力、そこからの成長と通底する愛はどうしようもなく私を惹きつけた。目の前で生きる5人があまりに魅力的で、息ができないほどに泣いて、力の限り手を叩いた。5つの人生がいつの日も光に照らされていますようにと願わずにはいられなかった。

 

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スチュワート・サトクリフ/戸塚祥太

 

戸塚くんはずっとビートルズ、とりわけジョンレノンが好きだと公言してきました。でも蓋を開けてみれば、このスチュは戸塚くんにしかできなかったと断言できます。本当の自分を探し求め葛藤する姿は「アイドル」という肩書に悩んだ時期の戸塚くんを彷彿とさせました。スチュの存在が戸塚くんの勇気になっていれば良いなと思います。特に好きだったのはアストリッドのアパートの前で愛を叫ぶ場面。身も心も躍動して内側から湧き出る言葉を流れるように舞台に零すあのお芝居は、戸塚くんの代名詞と言ってもいいと思います。新たなハマり役を見せてくれてありがとう。ベースも続けてね。

 

ポール・マッカートニー/JUON

 

チョコレートケーキからでも音が出せると噂の楽器の名手、ポールは左利きでした。それを右利きのJUONさんが演じることの凄さは壮絶すぎて今でもちょっとよくわかっていません。そもそもポールはギターだけでなくベースも弾くことになるのですから、どれだけの負担とプレッシャーがのしかかったことでしょう。それを乗り越え圧倒的な安定感でバンドの演奏を引っ張る姿は感動的ですらありました。またスチュへの嫉妬心をジョンに言い当てられるシーンや、最後のtwist&shoutへとジョンを駆り立てるシーンなどお芝居的に難しいシーンも素晴らしく、涙を誘いました。ご本人が「舞台上で自動的に体が動く」というようなことを仰っていたので憑依型のお芝居なのかもしれません。今後は舞台などにも活躍の場をさらに広げていただきたいなと思いました。まっすぐでしっかり者でカッコいいポール、ありがとうございました。

 

ピート・ベスト/上口耕平

 

スチュの存在もそうですが、リンゴの前に別のドラマーがいたことは知りませんでした。上口さん演じるピートは情に厚く筋を通す真面目な男。いつもバンドを後ろで支え常に冷静に状況を見つめる視線の鋭さがとても印象的でした。見どころはなんといっても突然の解雇のシーン。スチュを辞めさせる話が出たときも「バンドから追い出すなんて許さない」とハッキリ言っていたピート自身がその憂き目に遭うなんて想像もできませんでした。エプスタインに自分は2年間すべてを捧げたのだと話すシーンの迫力は圧巻で、「バスドラから力もらってさあ!」の辺りでいつも泣いていました。習い始めたばかりだったというドラムも、疾走感がありながら安定していてバンドの立派な屋台骨になっていて素晴らしかったです。自尊心の男ことピートベスト、大好きでした。

 

ジョージ・ハリスン/辰巳雄大

 

辰巳くんのことはおそらく一番長く見ているので、真面目で頑張り屋さんなところや優しくて気にしいな性格のことはもともと知っていました。辰巳くんの持っているいいところがすべて発揮されるようなハマり役だったのではないかと思います。まっすぐでお茶目でピュアな末っ子キャラはこの舞台を見た誰もがおばあちゃんになる愛さずにいられない魅力的なキャラクターでした。青春の輝きが眩しい1幕の5人の中でもひときわ瑞々しく何もかもを吸収し力にしていく姿は美しくすらあったと思います。ジョージありがとう、絶対幸せになってね。

 

ジョン・レノン/加藤和樹

 

若き日のジョンは愛を追い求めていました。喪失を埋めようともがき、衝動を怒りにぶつけていました。そんなジョンがスチュに見出した安らぎと愛。それこそがこの史上最大にクレイジーな波の原初にありました。舞台に上がり黒いコートを脱いだ瞬間から目を奪われる圧倒的な存在感。ジョンレノンのカリスマ性と歌声にこんなにも説得力を持たせることのできる役者が存在するのかとただただ呆気にとられました。スチュに向ける愛は友情でも恋慕でもなく、もっともっとひたすらに純粋な感情。その美しい想いに涙を止めることができませんでした。好きなシーンを挙げればキリがありませんがやはり秀逸なのはスチュの死後。どんなときも気丈だったジョンの慟哭は見ている者の心を深く貫きます。頬を伝う雫は何よりも悲しく何よりも綺麗でした。優しく美しく愛おしいジョン。貴方に出逢えて幸せでした。どうか天国でスチュと笑いあっていますように。

 

 

理屈抜きにカッコよくて眩しくて愛しくて、もう大好きという言葉しか出てきません。舞台BACKBEATに携わったすべてのキャスト・スタッフの皆様、人生を変える出逢いをありがとうございました。

 

大千秋楽でジョンが言ってくれた「また会おうぜ」の言葉を信じて、また会う日まで。