星の彼方 雲の隙間

声が届かなくても想ってるよ

価値のある使命、或いは親愛なるハリーへ

Defiled

勝村政信×戸塚祥太

 

息遣いが聞こえる密室で事件を目撃する緊張感。淀みない会話劇から匂い立つふたりの人生。あれ以上でも以下でもない。残ったのは私達の心に沈んだ何かだけで、それを言葉にするのはとてつもなく難しい。

 

けれど。

 

私ね、学生時代、ついぞ電子辞書を使わなかったんですよ。今でも持ってはいないし、電子書籍も買ったことがない。なんでもかんでも合理化できる人が羨ましかった。でも自分がそれをしようとは思わなかった。

 

パソコンは小学生の頃からパソコンクラブに入るくらい好きだったし、高3まで持たせてもらえなかった携帯も今じゃ依存症。テクノロジーがもたらす便利さも、広がる世界の豊かさも目一杯享受してきました。

 

だけど何処かで、画一化への恐怖や合理化への嫌悪をいつも感じていました。それはとても根源的で言葉にはできない、心に広がるシミのような恐ろしさ。そして何より怖いのは、世の中の誰も私と同じことを感じていないような気がしたことでした。

 

例えば大学のゼミでは同じように感じている人達とも巡り会いました。でもそうやって世の中を語り合ったみんながそれでも「普通に」就職していくのが本当はとても怖かった。私は進むことも戻ることもできずにただただ恐怖に立ち尽くしていました。もちろん誰にもそうとは言わずに。

 

だからハリーを見てとても驚きました。彼は私だった。私が喋っているのだと思った。彼が愛するものの神聖さを語るとき、それが失われることへの抗議を叫ぶとき、私は溢れる涙を止めることができませんでした。初めて本当に分かり合える人に出会えたのかもしれない。魂が共鳴した気がしました。

 

A.B.C-Zを応援していると時たま考えることがあります。時代に忘れ去られる何かを、それでも流されず大切に思えるか。諦めずにいられるか。決して楽でない方の道を、それでも歩む覚悟があるのか。その強さを私たちは常に問われている。

 

彼は正しい。痛々しい程に鋭く正しかった。だけどどうしようもない馬鹿だ。何かを守る強さは力なんかじゃない。弱くて未熟で馬鹿な男が死んだくらいで世界は変わらない。

 

 

君のその赤子のような無垢を守るのにこの世界は辛辣すぎたね。殉教者になった気分はどう?救われたかい?でも君が本当に守りたかったものはどうなった?

 

だから、だからさ、死ぬなよ。私は貴方に生きてほしかったんだよ。このクソみたいな世界で、ちっぽけにズル賢く、それでも生きてほしかったんだよ。大切なものを大切だと言える人生を、この先も歩んでほしかったんだよ。ブライアンと友達になったりしてさ、世界の退屈な広さを知ってほしかった。

 

ねえハリー、貴方のいなくなったこの世界は相変わらずユニークさの欠片もない連中が跋扈してるよ。人々はそれをおかしいとも思わない。生き辛いったらないね。でも私は自分の大切なものの明日の為に今日も生きるよ。そして何より貴方が生きていたことと、死んだことを忘れない為に。

 

親愛なるハリー、貴方と出会えて本当に良かった。

どうか、どうか安らかに。