星の彼方 雲の隙間

声が届かなくても想ってるよ

仕方ないのよ恋女〜五関担の寝盗られ宗介観劇記

「寝盗られ宗介」@新橋演舞場

5/24~5/29
 
ある日突然スポーツ紙の紙面を飾った寝盗られ宗介のポスタービジュアルはあまりに衝撃的だった。その妖艶な美しさはおたくの妄想が形になって現れたのかと思うほどの出来栄えで,「なんだかわからないがとにかく見に行かなければならない」という衝動に駆られたのを覚えている。
 
SHOCKと同じ締切日の振り込めをなんとか済ませ,カード枠にも電話してなんとか手に入れた3枚のチケット。地方公演が始まってもなかなかレポが流れてこず,劇場で何が起きているのかと震えながら開幕を待った。
 
そして演舞場初日。初めての演舞場に浮かれ薦められるままにお土産の玉ねぎ煎を買うなどしていた私は席に着いて驚愕の事実を知ることになる。
 
「は,花道の横…!」
 
花道より下手側でかなりサイドではあるが,花道のある舞台を見たことの無かった私はいきなりの花道横に面食らってしまった。演舞場初日ということもあり意味も無く緊張していた。動悸が激しい。待ちに待った寝盗られである。
 
そして幕は上がり,降りた。
 
「あ,飴ちゃんもろた…」
私はと言えばあまりに怒涛の3時間で頭の整理がつかないまま,トミーが優しい笑顔で渡してくれた飴ちゃんを持って立ち尽くしていた。自分ひとりで持ち帰るのもあれだと思って列の隣の人たちに飴を渡したのはいいのだがどうして自分用に食べられもしないイチゴの飴を選んでしまったんだろう…いやそんなことはどうでもいい。戸塚祥太がとても綺麗だった。あ,あとあれだ。
 
由美子抱いてくれ。
 
とにかく初日の感想はこれに尽きた。鴻上尚史の音楽劇「リンダリンダ」の再演でその舞台女優としての存在感や歌唱力は知っていたものの,今回の由美子姐さんは何から何まであまりに圧倒的だった。台詞回しに立ち振る舞いや所作,歌唱力,そして何より座長である戸塚祥太を引っ張り,支え,受け止めている姿には惚れ惚れするしかなかった。
 
ぼーっとした頭でなんとか帰り着くと、由美子姐さんの迫力と戸塚祥太の滴る汗の美しさに浸っている暇もなく、翌日はやってきた。ZIPでMV解禁もあるというのにまさかの11時開演である。
 
2回目ともなると劇中劇の流れや話の構造が分かってくるので新しい発見がたくさんあった。こちらも昨日ほどの緊張はなかったし、一座のみなさんも多少リラックスして演じられていたのかもしれない。もちろん座長をはじめ全員が全力なことに変わりはなかったけれど。
 
そしてここで少し思ったことがある。五関に浪速屋音吉をやらせたらどうだろう。
 
いや、あの、戸塚担さん暢雄担さん気を悪くしないでくださいね。ふたりの音吉、悪役芝居は本当に素晴らしかった。その芝居にイマジネーションを掻き立てられた結果の思い付きなのです。なんかの雑誌で浴衣着てるやつあるじゃないですか。あれどうかなーって思ったの。女を人とも思わずに芸の肥やしにする河原乞食、ちょっと見てみたくなってしまいました。
 
 
1日あいて27日がいわゆるMy楽だった。この日の戸塚祥太はこれまで見た2回とは違っていた。誤魔化しようのないほど、喉が嗄れてしまっていたのである。幕間の休憩時間、私の声帯を潰してもいいから座長の声よどうか最後までもってくれと願わずにはいられなかった。
 
でも、そんな風に戸塚祥太を憐れむのは間違いだったと二幕で痛いほど私は気付かされることになる。限界を超えた座長は、ただひたすらに壮絶だった。私に語彙力がないのは確かだけれど、それ以外に形容のしようがない。
 
「ひとつ苦しめばひとつ表現が見つかる。ひとつ傷つけばまたひとつ表現が創れる。ボロボロになる、その分だけ輝けるんだぞ」
 
SHOCKにこんな台詞がある。自分と向き合い限界を超えた先にエンターテイナーの輝く道があると、コウイチがライバルに最後の教えを説く重要なシーンである。戸塚祥太が喉を嗄らしながら必死に声を張り上げる姿に、声以外の表現に注がれるにとてつもない熱量に、私はこの台詞を思い出さずにはいられなかった。
 
舞台は生き物であり、劇場では観客と演者の間に平等に時が流れていく。振り返ったり後悔したり落ち込んでいる暇はない。今できることを全身全霊でやり遂げることだけが、唯一次へと歩を進める方法である。この人はそれ痛いほど知っているのだと思った。板の上で命を燃やすことのできる者だけが光を浴びる世界で、ずっと闘ってきたのだと思った。本当に、美しかった。
 
宗介という男は端的に言ってクズである。座長としてはやり過ぎなくらいの器の大きさを持っているが、レイ子への愛はどう贔屓目で見ても歪んでいるとしか言えない。サキからのまっとうな助言さえ「つまんねえ女だなあ!」で済ましてしまう。目の前にいたらはっ倒したいくらいのクズである。でも板の上で繰り広げられる宗介の生き様は、何故かとても愛しかった。不器用で滑稽なのに、どうしようもなく魅力的だった。誰にでも演じられる役柄ではない。
 
こんな役をもらえる戸塚祥太が、こんな自担を見られる戸塚担のみんながとても羨ましかった。泣きたくなるくらい、羨ましかった。次の戸塚祥太の表現がとても楽しみである。つか舞台が恒例化することへの賛否はあるが、彼自身がやってみたいと語っていた「蒲田行進曲」が完成するまでは続けてみてもいいのかもしれないと個人的には思っている。
 
今回はもっとライトに戸塚祥太の美しさを楽しみにいくだけのつもりだったのに、こんなにも心揺さぶられるなんて自分でも驚いてしまった。とにもかくにもあの素敵な時間に感謝したい。
 
ありがとう宗介。
ありがとうレイ子。
ありがとう北村宗介一座。