星の彼方 雲の隙間

声が届かなくても想ってるよ

そこは天国か、まさか奈落の底でしょうか〜私がA.B.C-Zに転げ落ちた話

Sexy zoneは革命だった。

デビューシングルのいわゆる薔薇戦争にも1stコンサートにも参加していないけれど、Twitterで目にする彼らへの賛辞はどれも異様に熱を帯び、輝いていた。

勢いのある年上シンメ、絶対的センター、可能性の塊のような弟組。バランスのとれた完璧なグループ構成に狂気さえ感じるお耽美な演出。きっかけは覚えていないけれど、いつしか私も目が離せなくなり、FC発足時には迷いなく入会するほどになっていた。

革命だった、と書いたのはジャニーズの歴史においてということもあるけれど、私のおたく人生においても同じだった。KinKi以外のジャニーズに本気になったのは、それが初めてだった。

Sexy zoneを追うには欠かせない番組があった。ザ・少年倶楽部である。そして2012年の少年倶楽部クリスマススペシャルで、事件は起きた。

コーナーの狭間に、各グループのメンバーがクリスマスに合わせた愛の言葉をカメラ目線で投げ掛ける場面があった。なんの気なしにそれを見ていた私は、真正面から無防備でその男の言葉と笑顔に被弾することになる。

橋本良亮。

何を言ったかは覚えていない。でもとにかくそのまっすぐな言葉とはにかんだ笑顔は、確かに私を揺さぶった。

もともとA.B.C-Zにはどこか親近感を持っていたのかもしれない。昔SHOCKやきんきコンについていたらしいし、小学生の頃友人に郁人担がいた。実力派で、最近DVDデビューしたのよね。曲は良いからアルバムが出るなら欲しいなー、というような認識だった。でも当時の私はりょうすけが後から入ったことも知らなければ自分より年下だとは夢にも思わなかった(なんなら今でも信じてない)。正直顔と名前が一致していたのは郁人だけだった。少年倶楽部で見るパフォーマンスはいつもすごいなと思っていたけれど、要するに興味がなかったのである。

アイドルは顔が美しくなきゃいけない。
アイドルはこの残酷な世界の中で理不尽に選ばれた者でなくてはならない。
王道以外に価値などない。

KinKiが世界の全てだった私はなんの疑いもなくこう思っていた。Sexy zoneにハマったのも、圧倒的な美と理不尽なメンバー選考、王道のアイドル路線があったからだ。だからハッキリ言って下積みの長さが話題になるようなグループは好みではなかった。

それなのに。

その日からA.B.C-Zは気になる存在になった。はっしーと呼ばれる彼はどんな男なんだろう。どうしてあんなまっすぐな言葉を吐けて、あんな風に笑えるんだろう。あーやっぱりパフォーマンスは段違いだな。砂のグラスって良い曲だな。ジャニーさんはせくぞんとえびのどちらを海外輸出するか迷って競わせてるんじゃないだろうか…そんなことばかり考えていた。

そしてそんな生活を1年ほど続けて飛び込んできたのが、「A.B.C-Z1stアルバムリリース!」というニュースだった。今までDVDのおまけでしか聴けなかったA.B.C-Zの曲たちが全て収録された作品になるという。もう観念するしかなかった。すぐCDショップに行って予約をした。A.B.C-Zに初めてお金を使った瞬間だった。

同じ頃だったろうか、A.B.C-Zにはもうひとつニュースがあった。「えび座、異例の早さで再演決定」というものである。当時まだ現場に遠慮がちだった私はこれに申し込んでいなかったのだが、公演が始まった頃、情報メールで「特別登録」の受付があった。少し悩んだものの、どうせ当たらないだろうとダメ元で申し込んでみる。これが沼への入り口だとも知らずに。



仕事が昼で終わり、帰って昼寝をしていたある日のこと。枕元のiPhoneが大きな音で私を叩き起こした。知らない番号からの着信。普通なら迷わず拒否ボタンを押して再び眠りに就くところだった。しかし何故かその日の私は逡巡した。寝ぼけながらも、なんとなく出なくてはいけないような気がした。

「こちらジャニーズコンサート事務局です」

電話の向こうの女性は確かにそう言った。流石の私も事態を飲み込みはじめる。申し込んだ夜公演でなくその日の昼公演はどうかと問われた私は行けますと即答し、早速仕事の予定を調整した。

当たったのだ。
都市伝説だと思っていた特別登録が。

とはいえまだ「席を用意できる可能性がある」というレベルの当選で、嬉しいには嬉しいが実感はまったくなかった。いざ行ってみて入れなかったら嫌だなあという不安が拭いきれなかった。

そして当日。仕事を切り上げた私は初めての日生劇場に駆け付けた。看板を撮り、祝い花を撮り、指定された時刻きっかりにコンサート事務局の受付に行く。席が用意できた場合は改めて呼び出すのでその辺にいてくれとの指示だった。この時点ですでに開演30分前をきっていたと思う。どうなるかもわからずにひたすら入場列を眺めていた。

開演10分前。

「◯◯様ー!」

その声は確かに私を呼んだ。
ついに、A.B.C-Zに、会える。

受け取ったチケットには手書きで「GC階A列」の文字。A列という表記に驚きながらも日生に入るのが初めてだった私はどうせサイドの見切れ席とか最上階とかそんな感じだろうとたかをくくっていた。

しかし。通された席は中二階の最前列、ほぼセンターだった。その日は東宝関係者の観劇日だったようで、その余り席がまわってきたのだ。

特別登録が当たり、名前を呼ばれ、とんでもない神席がくる。もう、これは、運命だった。きんき担の大好物、運命そのものだった。

そしてついに幕が上がる。初めて見るA.B.C-Zは、舞台の上で確かに生きていた。5人の男の生き様が、そこにはあった。ジャニーズ伝説ももちろん素晴らしかったしこれを任される彼らは社長に愛されているのだろうと思ったけれど、やはり胸を打たれたのは橋本良亮加入の物語だった。

実力も人気も確かなのにデビューが遠かったA.B.C.と、自分だけ平成の仲間たちから取り残されデビューできなかったりょうすけ。この出会いもそう、運命だった。夢の為に新しいセンターを受け入れることを決めた四人の前に、圧倒的なオーラを纏った橋本良亮が現れる。腐りかける自分の心を制し、苦しみもがきながらそれを表現に昇華する、選ばれしセンターが。

再出発を遂げた5人が繰り広げる世界は夢のように輝いていた。大きな装置を魔法のように操る姿も、最大限に身体を使って表現するダンスも、飛んで回る度に光が飛び散る鮮やかな衣装も、ステージに立てる喜びを抑えきれない5人の表情も、その全てが私を魅了した。

実力のあるグループはすごい。
全員でいられるグループは強い。
愛を持ったグループはこんなにも愛おしい。

「ここにいるみんなを無理矢理にでも抱き締めたい」
「100年先も5人でやっていきます」
すっかりセンターが板についた末っ子の締めの挨拶にも順調に被弾し、終演後は気付けばグッズ売り場にいた。チケット代だってそんなに安いものではない。それでもあの子達にお金を使いたくて仕方なかった。もう完璧にやられていた。グッズだけでは貢ぎ足りずに劇場を出たその足で原宿のジャニショに向かうという、自分でも信じられない浮かれようだった。恋のドアが、確かに開いた。

その後もコンサートに行き、舞台に行き、彼らの表現をいくつも見せてもらった。どの瞬間も彼らは全力で夢に向かう。不器用でも確実に、ファンへの愛を伝えてくれる。いつもいつもまっすぐな彼らの笑顔に何回救われたことだろう。本当に出会えて良かった。

さて、そんな思い出のえび座が今年も始まる。どんな新しい彼らが見られるだろう。どんな素晴らしい景色を見せてくれるだろう。個々が世間に見つかり始めた今だからこそ、5人でいる強さを目一杯感じたいと思う。ずっとずっと、彼らと夢を見たいと思う。